福祉人材が不足している中、福祉の担い手を増やすためには、メディアの限定的な情報だけを鵜呑みにせずに、福祉の多様性やしごとの魅力について知る「福祉教育」は非常に重要だと言えます。しかし、IT化社会に向けてのプログラミング教育、グローバル人材を育成するための英語教育など新たな科目が増えていても、福祉教育を科目として取り入れる学校はまだまだ少ないのが現状です。
一般社団法人 FACE to FUKUSHIは、若年層向けの就職支援を中心に活動している団体ですが、福祉を学校現場で学ぶ機会が少ないという課題の解決にも取り組んでいます。中学生、高校生の段階から、福祉との接点をつくることで視野を広げてもらうことが重要だと考え、現在は中高生向けに福祉の魅力やリアルを伝える教育活動を行っています。また、中学校、高校の教員の方へ向けた福祉教育の重要性を伝える啓蒙活動や福祉教育の導入支援も行い、“福祉教育を未来の当たり前にすること”を目的の一つとして活動しています。
今回は、FACE to FUKUSHIにおいて福祉教育に関する事業に取り組む、荻原唯さんと池谷徹さんにインタビューを行い、お二人が考える介護・福祉の魅力や、同法人の取り組みについてご紹介します。
福祉の仕事は「できないことを代わりにしてあげること」とイメージする人が多いと思います。しかし、池谷さんは「人それぞれの強みや特性を把握して、活かし合うことで、環境を整えたり、役割を作るコーディネートをしていくこと」と福祉の仕事を表現します。
同様に、荻原さんも「障がいを持っている方の苦手なこと・出来ないことではなく、得意なこと・活躍できることに着目し、その人の役割をクリエイティブにデザインする仕事」と考えています。
例えば農福連携の現場では、長時間座って仕事をすることが苦手な方の場合、常に活動的であるという特徴に着目し、「種が入ったペットボトルを腰につけ、種まきの手伝いをしてもらう」という工夫をする。それぞれの方が持つ特性を活かし、役割をデザインする事例が挙げられていました。
【写真】インタビューにご協力いただいた、荻原唯さん(左)と池谷徹さん(右)
核家族世帯が増える中、祖父母などの家族介護を行うことは日常的ではなく、また、知人や家族に障がいを持つ方がいない限り、障がい者福祉に関わる機会も少ないでしょう。知らないから…、身近じゃないから…、多くの人はそうした理由で漠然と怖さや大変さを感じていたり、メディアからの一部分の情報で偏ったイメージを形成していたりします。
池谷さんは「福祉というと特定の資格や専門職をイメージする方もいますが、例えば、人の相談に乗ったり自分の所属するコミュニティの課題を解決したりするなど、人と人との支え合い“すべて”が福祉である」とおっしゃっています。
まずは福祉の多様性に触れ、様々な入り口があることを知ってもらい進学や就職の選択肢にして欲しいという考えのもと、FACE to FUKUSHIでは福祉のリアルを伝え、イメージを変えていくための取り組みを行っています。荻原さん、池谷さんの実施する事業においては、主に、中高生向けに以下の三つのテーマに基づく福祉教育のプログラムを実施しています。
①人口減少社会のリアルと私
「社会と社会保障の変化と福祉の役割」「社会と地域をデザインする新しい福祉の実践」というテーマの講義や、人口減少が社会や自分にどのような影響をもたらし、福祉とどう関わっていくのかを考えるグループワークを実施
②大学生が語る福祉の魅力
中高生にとって身近に感じられる年齢の近い大学生から、介護・福祉業界を選んだ理由や仕事のやりがいなどリアルな意見や魅力を聞けるグループワークを実施
③当事者のリアル・福祉のリアル
障がいをお持ちの方等(当事者)から直接、これまでの人生の体験談や想いを聞いたり、リアルなことを質問する対談を実施
上記はプログラムの一部ですが、実際に参加した多くの中学生・高校生が「福祉は意外と身近に存在するものなんだ」と自分ごととして捉えられるようになったとのことでした。
FACE to FUKUSHIでは、より気軽に当事者の声を聞ける、福祉の知識を得られる、高校生向けのプラットフォームの構築を検討しています。
福祉教育の重要性について認識はしていても、福祉を「どのように教えればよいのか」「授業としてどのように取り入れたらよいのか」と悩む学校の先生方は多くいます。
荻原さん、池谷さんの事業では、福祉教育で気軽に教材として取り入れられるコンテンツを制作しウェブ上で公開する取り組みを計画しています。まずは福祉教育の事例やサンプル映像を載せたウェブサイトを立ち上げ、興味はあるが何から始めればよいのか悩む先生方の力になりたいという想いのもと、活動に取り組んでいるとのことでした。
福祉教育が当たり前の未来を実現するために、福祉教育を取り入れやすい環境を作ったり、FACE to FUKUSHIや大学生、当事者の生の声を聴いてもらったりすることで、「学校や先生の“伴走者”になりたい」と荻原さんがおっしゃっていたことが印象的でした。
ここまで、FACE to FUKUSHIの取り組みと、取り組みに携わるお二人のご意見を紹介しました。
福祉を知らない、または身近に感じられないことで偏ったイメージが形成され、就職先としての選択肢にも入らない…。そのような現状を変えるために、福祉の正しい知識を学ぶ機会や、福祉業界で働く人や様々な当事者と触れ合う機会を提供し、福祉教育が当たり前の未来をFACE to FUKUSHIは目指しています。そうした積み重ねが福祉のイメージ・行動を変化させていくのだと思います。
ふくしかいご.jpでは、FACE to FUKUSHIの様々な取り組みを記事で紹介しております。ぜひご覧ください。
・ターゲット別魅力発信事業(若年層向け)の紹介
・「福祉」と「非福祉」の概念の変革が未来をつくる
・福祉人材を増やすためにFACE to FUKUSHIが挑戦していることとは?