ターゲット別魅力発信事業(若年層向け)の紹介記事の中で紹介させて頂いた一般社団法人FACE to FUKUSHI。その取り組みの一つに、“福祉”という概念を変革、アップデートしようと取り組んでいるSOCIAL WORKERS LAB(ソーシャルワーカーズラボ)というプロジェクトがあります。
なぜ、彼らは福祉の概念の変革、アップデートを試みているのでしょうか?
当プロジェクトのディレクターの今津新之助さんは、「自分自身が福祉と関係ないと思っている人は、福祉を何らかの先入観で捉えていて、壁をつくってしまっているのではないか」と言います。
今津さんの言葉を借りると、「これまで福祉に縁がなかった人に、福祉に関心をもってもらう。福祉という概念や仕事が、私たちの日常の身近なところにあることを認識してもらうための試み」をSOCIAL WORKERS LAB では行っています。
今回の記事では、その試みの一つとして企画開催しているトークイベントを取り上げ、皆さんと一緒に福祉という概念について考えていきたいと思います。
2021年1月16日に開催された「SOCIAL WORKERS TALK 2020 福祉の周辺 vol.1 まちづくりと福祉」は、皆さんが一般的に福祉と言われて連想するような職種ではなく、建築家や喫茶店、診療所経営といった“場づくり・まちづくり”の領域で活躍している3名のトークイベントでした。3名それぞれの活動内容が紹介された後、今津さんを交えたクロストークが行われました。
京都にある建築事務所「STUDIO MONAKA(スタジオモナカ)」の岡山泰士さんは、事務所の1階を「HIROBA」と命名し、地域の方が利用できるスペースとして開放しています。そのスペースでは、ワークショップや各種イベントが行われ、さまざまな形で地域の老若男女のつながりが生まれているとのことでした。
また、滋賀においては、耕作放棄地を開墾してシェアファームを展開しています。地元農家と連携して行われる月1回のマルシェは、地域の方が200~300名も集まるなど、誰もが利用できる地域交流のハブとなっています。
「多様なひとびとが触れ合うオープンな場をつくりたい」という動機から始めたという岡山さんの取組からは、物理的な空間を構築するという建築の仕事が、人と人とがつながる場の提供につながるという福祉的な意味を持っていることを学ぶことができます。
未来の日本は、単身世帯の割合が多くなり、一日に一言も声を発することなく生活が完結してしまう状態になっていく・・・そして、社会的なつながりの薄さが孤独死の原因のひとつになっていく。株式会社グランドレベルの田中元子さんは、そのような状況認識のもと、人と人とが出会い、関わり合う場としての「喫茶ランドリー」の価値や可能性を語られました。
「喫茶ランドリー」は、洗濯やアイロンがけ、裁縫など、さまざまな家事を行うことができる “家事室”付きの喫茶店です。家事や飲食といった目的だけではなく、イベントやパーティーの開催など自由な用途で利用することもできます。喫茶ランドリーは、主体的で能動的な「~したい」という気持ちをもった多種多様な人をつなぐ役割を果たしているのです。
『1階づくりはまちづくり』をモットーとした取り組みを展開する田中さん。建物でもあり、まちの一部でもある。プライベートでもあり、パブリックでもある。そんな「1階」をデザインすることで、人々の「~やりたい、したい」という想いを後押しし、新しい出会いを生み出している。
田中さんは、そんな活動を通じて「街のなかで、当たり前のように人と人とが行き交い、関わる場があるようなまちづくり」を実現しようとしています。
医師の紅谷浩之さんは、長野県軽井沢町にある「ほっちのロッヂ」という地域医療の概念を変える診療所を運営しています。この診療所には、誰もが利用できるカフェや多目的スペース(食事をつくる、勉強をするなど、さまざまな用途で利用可能)があり、病気や障がいをお持ちの方だけでなく、地域の方も気軽に利用できるようになっています。
一般的に、病院に行くときは、体調が悪い、痛い、つらいなど、苦しんでいるとき・・・。もっと気持ちの良いポジティブなきっかけで医療に出会ってほしいとの思いから、こうした取り組みを始めたとのこと。カフェや多目的スペースなどで「おいしい!」「楽しい!」というポジティブな体験ができる「帰りたくない診療所」として地域に愛されています。
紅谷さんは、自らの診療所の取り組みについて「人と人との“つながり”を処方している」という説明をされていました。その取組を通じて、立場(医師、看護師、病人、けが人…など)や年齢に関係なく、地域で暮らす住民それぞれが、自分らしくやりたいことに取り組める場を提供し、そこに集まる人たちのつながりをつくり出しています。
主催の今津さんは、本取材のなかで、「福祉の根幹は、人と人とのつながり。まちづくりや場の提供を通じて、『~したい』という思いをもっている人に寄り添う姿勢は、福祉人のありようそのものではないか」と述べていました。
そんな“福祉人”としての取り組みを体現されていた3人のお話からは、「人と人とがつながる場づくりを通じて、人々が幸せに、自分らしく生きることに貢献する」というまちづくりの福祉的な意義を垣間見ることができました。
また、「人と人とのつながりは、人間が生きることを支える根っこにあるもの。(コロナ禍の影響などもあり)これからの社会において、そうしたつながりを生み出すまちづくりや福祉の仕事はますます重要になってくる」というお話も印象的でした。
クロストークの最後には、登壇者の3名から参加者に向けて、以下のメッセージが送られました。
「自分がどのような社会を実現したいかを考えることが大切。その実現に向かって行動を起こすことがまちづくりや福祉につながる」
「自分が暮らしたいと思えるようなまちづくり・環境づくりに取り組んできたら、結果的に(人と人とのつながりを創造する)福祉の領域にもつながっていた。自分のやりたいことと福祉とを、わざわざ別の領域だと考えなくていい」
ぜひ、皆さんも、自分自身がどんなことをしたいのかを考え、アクションに移してみてはいかがでしょうか。そこから「人と人とのつながりの創出」「人々が幸せに、自分らしく生きることに貢献する」といった福祉的な意味に気づくかもしれません。
まだ自分のやりたいことが分からないという人には、「自らが持っている思い込み、レッテルがはがれ落ちるので、まずは福祉の現場を体験して欲しい」という紅谷さんのメッセージをお送りしたいと思います。
3名の取り組みを通じて、福祉というのは、皆さんが思っているものより、もっと広く、おもしろく、自由なものなんだと感じていただけたのではないでしょうか。
福祉を、より身近に捉え、自分との関わりを一緒に考えてみませんか。
SOCIAL WORKERS LABディレクターの今津さん。
一つひとつの質問に、とても丁寧に応えてくださいました
福祉は身近にあるということを伝え、その概念をアップデートしていこうと取り組んでいるSOCIAL WORKERS LAB。今回のイベントの他にも、以下のような活動に取り組んでいます。興味をもった人は、ぜひリンクをチェックください。
◆Webメディア「壌(JYOU)」
「壌(JYOU)」では多様な業界・分野に散らばっている「福祉的な視点をもったひと・もの・こと」を可視化し、すき込むことで、「私たちはどうすれば幸せに暮らせるのか」や「そもそも幸せな暮らしとはなにか」を探索していきます。多分野で活躍されている12名の先駆者について、そのビジネスと福祉との接点が書かれたインタビュー記事などが紹介されています。
◆トークライブイベント VoL,3「家族と福祉」 2021年3月6日14時~16時
今回、記事にさせていただいた『福祉の周辺』のトークイベントの第3弾です。
第3回は、“家族”という切り口から福祉について考えます。
SOCIAL WORKERS TALK2020「福祉の周辺」PV
◆「SOCIAL MEETing 2020」 2021年3月13日(土)14日(日)13時~17時
「福祉の周辺」へチャレンジする先駆的なソーシャルワーカーと学生・第二新卒が出会い、語らい、交流しあう対話重視の少人数のマッチング&ネットワーキングイベントです。テーマは「社会のために働くとは何か?これからの働き方を考える」。福祉法人で働く人たちがどのように社会をとらえて働いているのかを、参加者と語り合う場となっています。
また、上記以外にも、福祉法人とともに「法人研究会」を実施しています。「なぜ福祉はさまざまな人々へと開かれていなければならないのか」「福祉が多様な人々を受け入れられることでどのような価値が生まれるのか」「それらを実現するために福祉法人は何に取り組むのか」といったテーマについて、経営者や人事採用担当者、現場職員の皆さんとともに対話をしながら理解を深める場を設けています。