介護事業者の皆様は人材確保についてどのように取り組まれているでしょうか?またその取組の効果はいかがでしょうか ?
令和3年1月に厚生労働省が発表した「一般職業紹介状況(令和2年12月分及び令和2年分)について」によると、令和2年12月における全職業の平均有効求人倍率が1.03であるのに対し、同時期の介護サービスの職業の有効求人倍率は3.99と非常に高くなっています。
このような状況において人材を安定的に確保していくためには、採用と定着の両面を強化する戦略を考えることが欠かせないでしょう。
これから採用と定着に関する記事を2回に分けてご紹介しますが、今回は採用についての記事となります。
皆様ご存知のように採用活動は計画から募集、説明会、選考など、複数のプロセスから成り立っており、それぞれのプロセスに課題や取り組むべきことが存在します。戦略的に採用活動を行いたいと考えつつも、具体的にどのプロセスでどのようなことに取り組めばよいのか悩む事業者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、特に多様化している採用活動における情報の発信について、発信方法や発信内容を、事業者様の意見や事例を踏まえながらご紹介します。
なお、人材の定着については次の記事で紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。
<目次>
◆ 情報発信の手段について
-募集形態の変化への対応が重要
◆ 発信する内容について
-法人ごとの売りをアピールすることが重要
-事業者の例
①施設の魅力を発信-入居したい介護施設は入職したい介護施設-
②専門病院をグループに持つことの強みを発信-プロフェッショナルとしての役割分担と連携-
③多様な働き方を発信-他機関や地域との連携-
-募集形態の変化への対応が重要-
冒頭でも示した通り、介護業界における人材確保は容易ではなく、募集のプロセスにおいても、なにをどのように発信すればよいか、多くの事業者が悩まれていることだと思います。
介護人材政策研究会の代表理事である天野氏は、人材を獲得出来ている事業所と出来ていない事業所の違いのひとつに、「募集形態の変化への対応が出来ているか」という観点を挙げています。例えばポスターを活用した求人といった、従前の募集形態が必ずしも効果的ではなくなってきているため、ターゲットを定めたうえで、ホームページやYouTube・Instagram(インスタグラム)といったSNSなど、活用するツールを決めることが重要だと言います。
インターネットを使った広報などに着手する際は、具体的にどのような情報を発信すればよいのでしょうか。先述の天野氏は、「自分たちが目指しているゴール・理念などで他施設と差別化し、法人ごとの施設の細かな売りを発信することが大切である」と言います。採用は最終的には法人と求職者とのマッチングであるため、法人の売りをしっかり見せることがミスマッチを防ぐことにもなります。
それでは次に、人材確保に向けた各事業者の情報発信の例をご紹介します。
①施設の魅力を発信-入居したい介護施設は入職したい介護施設-
社会福祉法人和敬会まどかの郷 太田二郎氏(左)、太田和敬氏(右)
愛知県額田郡にある社会福祉法人和敬会まどかの郷(以下、まどかの郷)では、「入居したい介護施設は、入職したい介護施設である」という考えに基づき、魅力のある施設づくりに向けて努力をしています。「この施設で働きたい」と職員に思ってもらうためには組織に対する帰属意識を高める工夫が必要であり、常にサービスの質を改善・向上させる必要があると、和敬会の太田二郎氏・和敬氏はおっしゃっていました。
取組の一環として、1人の入居者に1人の担当者を付ける担当制を導入。担当者はその入居者の1番の理解者となり、相手がしてほしいことを叶えてあげられる状態を目指します。非効率な取組とも捉えられるかもしれませんが、1人1人に手間をかけられるだけの余裕が、入居者の生活を豊かにするためのアイデアを生み、サービスの質を上げたりスタッフが自分で成長できるきっかけにもなるとのことです。
また、「人材確保は仲間づくり」という考えを持ち、同じ思いや魅力を分かち合える仲間づくりをするには、どのような施設でどのような介護をしているか、施設の中から現場の声を発信していく必要があると言います。
これらの考えを反映し、和敬会のホームページではわかりやすい情報発信を心がけ、「職員みんながソーシャルアクティビスト*」というメッセージや理念のアピールに力を入れています。
* http://www.wakyokai.or.jp/recruit/message.html
②専門病院をグループに持つことの強みを発信-プロフェッショナルとしての役割分担と連携-
各医療、介護スタッフが集まり学術発表会に向けて準備をする様子
徳島県板野郡にある社会医療法人凌雲会(以下、凌雲会)では、役割分担がしっかりとなされ職員同士の連携が充実しているという、専門病院をグループに持つことの強みを発信しています。具体的には、力のいらない移乗の仕方など専門的な説明がすぐに得られる点や、医療職員と介護職員の連携が充実している点といった、リハビリの専門病院をグループに持つ凌雲会ならではのプロフェッショナルとしての強みを新卒向けにPRしています。その業界に進むことをためらっている介護の学科以外の学生などに特に受けが良いと、凌雲会の仁木氏はおっしゃっていました。その施設ならではの強みを伝えることで、求職者も他施設との差別化をしやすくなるのでしょう。
また、キャリアパスについて、凌雲会では職員が色々な資格を取れる体制を整えており、国家試験の勉強のサポート、受験に必要な実務者研修の無料受講、資格取得後の給与体系等の変化等を案内しています。
本サイトでは、介護職の多様なキャリアパスに関する記事も掲載しているため、ぜひご覧ください。
③多様な働き方を発信-他機関や地域との連携-
社会福祉法人金武あけぼの会 施設内イベントの様子
沖縄県国頭郡にある社会福祉法人金武あけぼの会(以下、金武あけぼの会)は、多様な働き方を提案しており、例えば勤務時間については4, 5.5, 6, 8時間など、ライフスタイルに合わせて調整をしながら働きやすいよう配慮したり、市が運営する就労支援センターと連携し、小さな子どもを持つ親や県外から移住してきたばかりの人への職場紹介に注力したりしています。他にも、求める人材などを説明したビデオをハローワークで流してもらうなど、他機関と連携した情報発信に力を入れています。
また金武あけぼの会では、地域の人の紹介が人材確保に大きな役割を果たしており、例えば一番高齢の75歳の方には、地域の御用聞きという形で見守り隊として入っていただいています。
地域との連携は施設にとって非常に大切だと、金武あけぼの会の宜野座氏はおっしゃっていました。地域との繋がりの例として、地域祭りを30年ほど開催しており、米軍の音楽隊や小中学生の演舞、青年会や地元企業による屋台などで盛り上がります。他にも利用者とご家族が一緒に参加できるバイキングを開催しており、米軍の方がボランティアとして参加し地域の人と異文化交流をしています。このような地域の人が多く集まる場を設けることも、施設の情報発信をする大切な手段のひとつであるのかもしれません。
ここまで人材確保に向けた情報発信の手段や発信する内容など、様々な創意工夫をされている事業所の事例を紹介いたしました。各施設はそれぞれ違った魅力を持つため一つの正解はありません。
しかし、ターゲットを定め、情報を届けるためにはどのようなツールを使用した情報発信が適しているのか考え、法人としてのセールスポイントや理念を発信していくことは共通の要点となります。
今の情報発信方法・内容を改めて振り返りつつ、今後は採用活動に必要な視点や施策を体系的に学んでいくことが、皆様の採用に関する悩みを解消するヒントになるのではないでしょうか。
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