「良い介護」って何だろう?
介護従事者それぞれに考え方があると思います。
ただ、「良い介護」を実現するためには、同じ目的を据えてチームメンバーと協働することが大切であることは、皆さん全員が共感するところだと思います。
では、同じ目的を据えて協働するために、事業者や介護職員ができることは何でしょうか?
社会福祉法人福祉楽団の理事長で、大学講師としても活躍する飯田大輔氏は、”介護の原理・目的”を理解し、「ケアのものさし」を職員全員が持つことが重要であると言います。
では、「ケアのものさし」とは何でしょうか?
株式会社シルバーウッドが主催する「マネジメントスタンダードプログラム for kaigo」実践コースは、介護事業者を対象とした全6日間のマネジメント研修です。職員間の対話やケアの質の向上、離職防止等を推進するための手法を学ぶことができます。そのマネジメント研修の1・2日目として、2020年12月12日(土)と13日(日)の2日間にわたり、飯田氏を講師に迎えた「介護とは何か」をテーマとした研修が、東京にて開催されました。今回の記事では、介護への熱い思いを持つ約50人のリーダーたちが参加した、介護の根本に立ち返る研修の様子をご紹介します。
研修は実地での参加と、オンライン参加の両方が可能な形式、いわゆるハイブリッド型での開催でした。東京都内・近郊にお住まいの方だけでなく、遠方から参加したいリーダーたちも気軽な参加が可能になりました。
実地参加者はオンライン参加者の顔が見え、オンライン参加者は会場の様子がわかるように設定されており、参加する場所を問わず熱意の伝わる空間となっていました。
研修は、講師からの一方的な発信で資料通りに淡々と進むのではなく、ケアにまつわる雑学、問いかけなどがあり、楽しみながらインタラクティブに学べるスタイルでした。コメント欄でいつでも気軽に質問や意見ができることは、オンラインを活用した研修の素晴らしい点ですね。
研修1日目は、ナイチンゲールの看護論を通じて、”介護の原理・目的”を学ぶ講義でした。
講義では「なぜ歯磨きをするのか」「なぜ職員は身だしなみを整えるのか」など、多くの問いが参加者に投げかけられました。参加者もプロとして、自分の事業所でのルールや経験に基づいて回答。しかし、自身がつい一般論や常識に閉じて考えてしまっていたことに気づかされるシーンもありました。明確な目的を持ってケアを実践していると言い切ることは、とても難しいことです。
講師の飯田氏は、今の介護現場が「どこに行くのか決めないまま、どうやって行くのかを考えている状況」であると表現しました。働いている職員たちの中で、ケアすることのゴールが明確になっていないために、本人が何をもとにケアの方針を決定すれば良いのかわからない。これでは、第三者から見て、ケアの内容を評価することも難しいでしょう。
何が正しくて何が間違っているのかを判断できるようにするためには、介護職員が「ケアのものさし」(基準)を持つことが大切だと講義では説明されていました。その「ケアのものさし」こそが、講義で繰り返し学ぶ”介護の原理・目的”なのです。
講義での学習内容や飯田氏の解説には、常に”介護の原理・目的”に即した一貫性がありました。このおかげで、参加者は考え方の軸を揺らすことなく、自身のケアの在り方を問いなおすことができました。
「考えて言葉にしてみる⇒”介護の原理・目的”に立ち返る⇒もう一度考える⇒気づきを得る」という学習のサイクルが講義内では繰り返されました。サイクルを重ねるごとに、参加者の発言からは、「何のためにケアするのか」という目的の部分がより明確になっていく様子が見受けられました。
2日目は主にグループワークが実施されました。
講義で学んだ”介護の原理・目的”を踏まえて、各グループで「入浴」「歯磨き」などといった介護ケアの在り方を改めて検討しました。
1日目の講義開始当初は、普段の業務について「なぜそれが必要か」というケアの目的にまで迫って考えることができていない場面もありましたが、2日目には参加者全員が”介護の原理・目的”という共通の「ケアのものさし」を持っていることで、事業所の枠を超えて、同じ目的を据えて議論することが可能になりました。目的は同じでもアプローチは様々。リーダーたちの意見交換は熱く続きました。
経験則に基づいて固定化されてしまいがちな介護に対する考え方を、自分で問いなおして修正する。参加者の「思考への積極性」が2日間の研修で高まっていることは明らかでした。
グループワークに参加することの意義は、学んだことを互いに確認しあえることだけではありません。講師からのみでなく、他の参加者からの意見・経験談を吸収して多面的に物事を検討できるようになることも大きなメリットです。また、ともに学び、より良い介護を目指す同志を得ることは、今後の活動の原動力となるに違いありません。
「マネジメントスタンダードプログラム for kaigo」実践コースの5日目(2月6日)には、グループワークで検討した介護ケアの在り方について、各グループからの発表が行われました。こちらの様子は別の記事でご紹介する予定です。
事業所の職員全員が“介護の原理・目的”を正しく捉え、常に振り返ることで、事業所全体として同じ目線に立って議論することが可能になります。また、「ケアのものさし」を全員で共有することで、ケアの道筋や取るべき行動が明確になります。その結果、業務がよりシンプルになり、職員の負担が軽減される可能性もあります。
職員全員が同じ「ケアのものさし」を持ち、議論を展開すること。そして、「ケアのものさし」に基づいて効果的に意思疎通や意見交換ができた例や、工夫することでより良いケアが実践できた例など、ひとりひとりが成功体験を積み重ね、それを共有することで組織の成長に繋がっていきます。
以上のような考えのもとでは、リーダーの役割は、職員全員が成功体験を経験できる機会にあふれる環境を創り、整えることであると飯田氏は言いました。
参加者からは、研修で学んだ「ケアのものさし」を自分の事業所でも早速共有したい、との声も上がりました。パワフルなリーダーたちが率いていく介護の未来に、頼もしさを感じました。
「マネジメントスタンダードプログラム for kaigo」実践コースの3・4日目として、2020年12月19日(土)と20日(日)に開催されたマネジメント研修の様子も、「ふくしかいご.jp」の記事でお伝えします。VRを活用したケーススタディを通じて、介護の現場に必要とされている「マネジメントの原理原則」を理論的・体系的に学ぶ、画期的な研修です。是非、こちらのリンクより併せてご覧ください。