介護業界における外国人雇用割合が緩やかに高まりつつあります。公益財団法人介護労働安定センターが行った「令和元年度介護労働実態調査」によると、外国籍労働者を受け入れている事業所数は6.6%となっており、前年度の2.6%より4.0%増加しています。
しかし事業者の皆様にとって、外国人を採用することについてはまだ不安や疑問点も多くあると思います。それらを少しでも解消できるよう、本記事では実際に外国人を採用している事業者様の意見を交えながら、外国人雇用についてご紹介していきます。
<目次>
◆ 外国人を採用する意義
◆ 外国人を採用する4つの方法
▽ ①EPA(経済連携協定)
▽ ②在留資格「介護」
▽ ③外国人技能実習制度
▽ ④在留資格「特定技能Ⅰ」
◆受け入れにあたって留意すべき点
▽受け入れ前に外国人に発信する内容
・理念、仕事の内容、働き方
▽ 受け入れ後に配慮すること
・ A)生活面の支援
・ B)文化の配慮
・ C)言語(日本語教育)
・ D)事業所内の日本人職員との関係性
◆まとめ
そもそも、介護の現場において外国人を採用する意義や価値はどういったものがあるのでしょうか。第一に「労働力の確保」をイメージされる方が多くいらっしゃると思います。もちろん人材確保はひとつの意義ではありますが、実際に外国人を採用しているいくつかの事業者様に伺うと、「言語的な問題でコミュニケーションが思うようにいかないこともあるが、利用者の目を見てしっかり話を聞いているところが好感を持たれている」「実習生は方言が話せるようになったくらい馴染み、利用者は遠い国の孫がきてくれたというような気持ちで接している」等、実際に外国人を採用している事業者様だからこそ認識している価値についても話してくださいました。
このように、外国人を採用することは単純に人材を確保出来るという観点以外にも意義を持つのです。
では、実際にはどのような受け入れ制度があるのでしょうか。現在、外国人介護人材の受け入れについては、①EPA(経済連携協定)、②在留資格「介護」、③技能実習、④特定技能によるものがあります。受け入れ方法によって資格の有無や雇用可能な期間が異なるため、まずはそれぞれの仕組みにどのような特徴があるか把握することが、受け入れの検討にあたっては大切です。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 外国人介護職員の受入れと活躍支援に関するガイドブック(令和元年度 厚生労働省 老人保健健康増進等事業「外国人介護人材の受入れ実態等に関する調査研究事業」)を基に作成
4つの受け入れの制度をご紹介しましたが、どの方法で外国人を受け入れる際にも留意すべき点があります。そのポイントについて、実際に外国人を雇用している事業者様の意見を交えながらご紹介します。
▽受け入れ前に外国人に発信する内容
・理念、仕事の内容、働き方
事業所に新たな人員を迎え入れる際は、事業所の理念、仕事の内容、働き方などを伝えることが大切ですが、外国人の受け入れにあたっては、より一層それらの情報を丁寧に伝えることが大切となります。仕事の内容や働き方のベースとなっている事業所の理念、もっと大きな視点でみると日本特有の習慣や物事の考え方などは、外国人にとって馴染みのない場合も多いと思われます。知らなかったことによるトラブルを後から生まないよう、事業所の理念や仕事上の基本的なルール・働き方を基礎知識として伝えておくとよいでしょう。
既に外国人を採用している社会福祉法人芳香会(茨城県古河市)の宇留野氏は、「一番大切なことは、自分たちが何を期待し、来てほしいのか、基本的な考え方をしっかり持つことである」、とおっしゃっています。
また、今年より日本の事業所へ就職することが決定しており現在専門学校に通うベトナム人のリンさん(仮名)は、「介護職として事業所で働くうえで一番知りたいことは、これから施設で仕事をする際、実際にどのようなことをするのかという仕事内容と、介護職として周りの看護師、医師とどのように連携し仕事を進めていくのかということである」とおっしゃっています。
外国人の不安を取り除くためにも、事業所はどのような理念・方針で運営され、具体的にどのような仕事を任せたいのか、事前にしっかり伝えることが大切です。
▽ 受け入れ後に配慮すること
【写真】外国人職員が働く様子(社会福祉法人芳香会)
A) 生活面の支援
実際に外国人を受け入れるにあたってまず重要となるのが生活面の支援です。外国人の生活上のルールやマナーは日本と異なることも多いため、日本における衣食住の生活環境を整える支援が必要です。特に住まいについては生活の基盤となるため、住まいの提供や契約に関する支援、家賃補助などの支援が必要です。服装や食事についても、出身国の文化によって慣習や思い入れがあることを配慮し、例えばそれらを手に入れることの出来る場所を教えたり同行してあげたりすることも外国人にとって大きな助けとなるでしょう。
また、異国での慣れない生活環境は想像以上に心身に負担がかかります。ホームシックに陥ったり、体調不良をきたしたりすることもあるかもしれません。メンタル面のサポートを手厚く行い、こまめに状況を確認し、気軽に相談できる機会を設けましょう。
先述のベトナム人のリンさんは、「就職予定の施設では現在外国人が自分だけであるため、わからないことがあるときは誰に聞けばいいのか不安がある」とおっしゃっていました。そのような不安を解消するためには、同じように日本で働く外国人のネットワークを活用して同じ出身国の先輩に母国語でカジュアルに相談する機会を設けたりすることで、悩みや不安を打ち明けやすい環境を作ることが有効かもしれません。
B) 文化の配慮
外国人の方々は、自分たちの生活様式を受け入れてくれるかどうか、ということを気にされています。出身国によって文化、宗教上の規則や慣習も存在するため、配慮が必要です。
事業者様へのインタビューからは、特に信仰上の配慮に気を配られている事業者様が多いことがわかりました。多くの日本人にはあまりなじみのない文化や習慣を持っていることもあるため、それらを理解し尊重することが大切です。
先述の芳香会の宇留野氏は、「礼拝の時間や服装ではヒジャブ(ムスリムの女性が頭や身体を覆う布)など外国人の生活様式を受け入れてくれるかどうかが外国人にとっても一番重要である」とおっしゃっています。特にイスラム教徒の場合、ラマダン(イスラム歴9月の断食月)の時期など配慮すべきことが多くあります。宗教的行為(モスクでのお祈り等)の可否については外国人も遠慮しながら訪ねてきてくれるため出来る限り配慮しているとおっしゃっています。
C) 言語(日本語教育)
日本で安全に生活していくためにはもちろん、業務上のコミュニケーションや他職員との連携を円滑に行うためにも、継続的な日本語教育が大切になります。
アリス国際学園の理事長である竹澤氏は、「シルバー人材センターや介護福祉士会等で介護の現場において使用する言葉の教科書があるが、外国人が学んできた一番丁寧な日本語と比較しても難しい」とおっしゃっています。例えば、ものの名前がわかっても場所の名前が分からないことなどがあるため、どこになにがあるか場所やものの名前をテープで貼るようにして学習させる。また、日本語の先生に介護の資格を取ってもらい、介護の現場においてあまり使わない言葉とよく使う言葉の分別を外国人に教えてもらうといった取り組みをしている事業者様も存在するとのことでした。
受け入れ方法や個人によって外国人の日本語能力は異なりますが、資格の取得や日本語能力試験(日本語を母語としない人を対象に日本語能力を認定する検定試験)のレベル上げを目標として日本語能力を鍛える教育をされている事業者様もいらっしゃいます。日本語能力の向上は自然と業務の範囲の拡がりにも繋がるでしょう。
D) 事業所内の日本人職員との関係性
同じ事業所で共に働く日本人職員との関係性も、外国人に最大限活躍してもらうためには非常に重要です。受け入れ時から、なぜ外国人を受け入れるのか、どのような体制で外国人を受け入れるのか、どのようなことに協力してほしいのか、など日本人職員へ丁寧な説明・共有をし、理解を促すことが大切です。日本人職員へのオリエンテーションや説明会を開催することも職員の理解を促進する一助となるかもしれません。
先述の芳香会では、EPAで外国人を受け入れる際に、日本人職員にアンケートを実施しています。受入前は初めての取り組みということもあり職員からネガティブな意見も多くありましたが、実際の受け入れ後は、職員の意識は全く変わり、外国人職員との協働に好意的な意見が多くなりました。このように、定期的に職員の声を聞くことも大切です。
【写真】社会福祉法人芳香会・宇留野氏(左)、アリス国際学園・竹澤氏(右)
ここまで、介護業界における外国人雇用に関する制度や受け入れにあたって考えるポイントをご紹介しました。実際に外国人を雇用している方々からのポジティブなエピソードが多く、読者の皆様の疑問が少しでも解消され、外国人の受け入れを検討されるきっかけになれば幸いです。