前回の記事でもお示したように、人材を安定的に確保していくためには、採用と定着の両面を強化する戦略を考えることが欠かせないでしょう。採用と定着に関する記事を2回に分けて紹介しておりますが、2回目の本記事では、人材の定着を検討するうえで重要な要素を整理し、人材定着に向けた事業者様の意見や取組例をご紹介します。なお、採用については前回の記事でまとめていますので、ぜひそちらもご覧ください。
<目次>
◆ 介護職の離職の実態
-離職率の推移
-離職理由
◆ 人材定着に向けた課題の整理
-本当に大切なことは離職率ではなく不本意な離職を減らすこと
-人材定着に向けて組織において検討が必要な要素
【事業所の理念・運営方針】
【人事制度】
【仕事に対するモチベーション・やりがい】
【人間関係】
◆ 評価体制に関する事業者様の意見や取組の紹介
-“層建て”した人材戦略
-おむつアドバイザーによる評価・フォローの導入
◆まとめ
介護労働安定センターが行った「令和元年度介護労働実態調査」によると、訪問介護員、介護職員(2 職種計)の 1 年間(平成 30 年 10 月 1 日から令和元年 9 月 30 日 まで)における離職率は 15.4%となっています。過去15年間の推移を見てみると、平成18年度は20.3%と高い数値を示していましたが、年々減少傾向にあります。
一方、厚生労働省が行った「令和元年雇用動向調査」によると、全産業の平均離職率は15.6%となっています。実は現在介護職の離職率は全産業の平均をわずかに下回っており、「介護職は離職率が高い」という多くの方が持つイメージほど高くはないのです。
介護関係の仕事の離職理由としては、先述の「令和元年度介護労働実態調査」によると、「職場の人間関係に問題があったため(23.2%)」「結婚・出産・妊娠・育児のため(20.4%)」「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため(17.4%)」「自分の将来の見込みが立たなかったため(16.4%)」「他に良い仕事・職場があったため(16.0%)」「収入が少なかったため(15.5%)」という理由が上位に挙がっています。
一般的に、人材定着について考える際、離職率が高いことに課題意識を持たれる方が多いと思います。しかし、離職率の高さは、他の法人・事業所に転職する能力やスキルを備えている人材の多さ、業界内の人材流動性の高さを表す場合もあるため、離職率の数値自体が一概に問題とは言えません。人材定着に向けては、離職率の数値を減らすことというよりは、不本意な離職を避け、人が辞めてもまた人材を獲得出来るような、魅力的な職場を作ることが大切でしょう。
それでは、人材定着に向けて事業所が向き合う課題にはどのようなものがあるのでしょうか。先述の実態調査からも「人間関係」や「給与」、「事業所の理念」など様々な離職理由があることが伺えます。以下に、人材定着に向けて組織において検討が必要な要素を【事業所の理念・運営方針】【人事制度】【仕事に対するモチベーション・やりがい】【人間関係】の4つの項目に分けて整理しています。皆様の事業所でも既に検討されていたり取組が行われている項目もあるかもしれませんが、要素ごとに、どのような取組が出来ているか、不本意な離職を減らすにあたって改善の余地はないか等、現状を振り返り整理することの一助になるかと思います。もちろんそれぞれの事業所の特徴や状況によって異なりますが、まずはどの課題に優先して向き合うべきか明確にすることが、人材定着に関する取組の第一歩となるでしょう。
<人材定着に向けて組織において検討が必要な要素>
【事業所の理念・運営方針】
【人事制度】
①等級制度
②給与体系
③評価体制(評価の基準)
④研修制度
⑤働き方(休暇制度や勤務時間、福利厚生など)
【仕事に対するモチベーション・やりがい】
①自分の成長
②他者(利用者など)の役に立つこと
③社会への貢献
【人間関係】
①上司とのコミュニケーション
②同僚とのコミュニケーション
③他職者(介護職以外の福祉・医療関係者等)とのコミュニケーション
④利用者や家族とのコミュニケーション
人材定着への取組に向けて検討が必要な要素を紹介しましたが、本記事では人材を管理するうえで基本となる【人事制度】のうち③「評価体制」について、事業者様の意見や取組をご紹介します。なお、評価体制を整備するにあたっては、上記の①「等級制度」において各等級の定義やコース区分を明確にし、②「給与体系」が整備されたのちに評価体制が機能するという、人事制度の流れを意識することも大切です。
<“層建て”した人材戦略>
介護人材政策研究会の代表理事である天野氏は、層建てした人材戦略が大事であるとおっしゃいますが、その具体策の一つとして職員個人の等級や意欲に応じた評価が挙げられます。
パート感覚で長く働きたいと考える人や、役職のイメージを持ちながら働く人など仕事に対する姿勢や位置づけはさまざまです。また、管理職を目指す人やその選択をしない人など、将来像も人によって異なります。それぞれの等級における明確な評価基準のもと、頑張ってくれている人には人事考課や面談などできちんと評価する場を設けることが必要です。
また、学びや成長の機会を提供したうえで、各々の意欲や頑張りに応じて評価するシステムも必要であるとおっしゃっています。例えば、浜松のある法人ではOJTの研修をオンラインで行い、動画やライブ配信を自由に職員に視聴してもらえるようにしています。視聴するかどうかはその人次第であるため、積極的に学びたい人とそうでない人が分けられます。このように場の提供をし、同時にその学びが評価に結び付くようにすると職員のモチベーションにもつながるのではないか、とおっしゃっていました。
<おむつアドバイザーによる評価・フォローの導入>
社会福祉法人金武あけぼの会(沖縄県国頭郡)の宜野座氏は、現場で働くスタッフは「評価されたい」「自分が行っている業務が利用者のためになっているのか」ということを気にしている、とおっしゃっています。そのため、業務において評価の基準を統一する必要があると考えており、そこに特化することに取り組んでいます。
実際に行っている取組として、おむつメーカーより“おむつアドバイザー”を派遣してもらい、おむつの交換の定期的な評価、適切なおむつの選定などというフォローをしてもらっています。この取組によっておむつの交換の回数を減ることで業務の負担が軽減し、職員の不満も少なくなったように感じる、と宜野座氏はおっしゃっていました。外部のアドバイザーから日々の業務において適切に評価されたり認められることで、職員のモチベーションの向上にも繋がっているのかもしれません。
ここまで、人材定着に向けた取組をするにあたって重要な要素や、実際の事業者様の意見や取組をご紹介しました。本記事では、人事制度のうち評価制度に関する意見・事例を紹介しましたが、数ある要素の中でどこに課題があるのかを明確にしたうえで、人材定着に向けた環境・組織づくりをはじめることが大切です。
本記事と前回記事の2回にわけて、採用と定着の強化についてご紹介しました。人材確保や強い組織づくりに向けては、どちらか一方だけでなく両面からのアプローチが必要となるでしょう。読者の皆様が、人材確保の取組に向けたヒントやアイデアを得られたら幸いです。